思いつきで文章の草稿や断片を書くための場所。

草稿帳75-51

75


 見上げれば何時も、正方形の枠にはまった鉄格子の向こうに木が見えた。
 唯一それだけが季節の巡りを少女に教えてくれる。
 今は紅葉がなって、時折鉄格子の合間から枯葉がひらりと落ちてくる。
 少女は七冊目になるスケッチブックに、クレヨンで地上に見える風景を想像して描いている。下には草むら。上には空。真ん中に煙突のある赤い屋根の家があった。ただ、それだけの絵であった。
 少女は本物の外を見たことがない。生まれて以来超能力実験の一環という名目の下に狭く、上が高い地下の一部屋に閉じ込められたままである。
 少女はその環境に何を思うこともなく、ただ絵を描いた。知らない色を求めて。


74

 暗い、実に暗い夜だった。黒雲の合間から恐ろしいほど綺麗な満月が時折顔を覗かせている。
 その月を背に一人の男が抜き身の刀をぶら下げて立っていた。
 男の正面にはまだ若い少年が、温もりを失ってゆく母親の骸を抱えて凄まじい目を男に向けている。
「俺を・・・俺を殺せ・・・!さもなければ何があろうと貴様を殺してやるぞ・・・!」
 男は相手にしていないかのように口で笑った。
「やってみろ」
 少年の射るような眼差しを意にも介していないかのように、男は背を向けて歩み去っていった。
 少年はその後姿を何時までも目に焼き付けるかのように睨みつけていた。


73

 まだ成長期真っ只中の少女は、裸でその中に居た。
 薄緑色の液体の中で逆さまに体育座りの姿勢をとり、浮かんでいる。
 白衣を着た科学者が数名、ディスプレイに移る数字を書き取っていた。
 科学者の一人がふと少女に目を移す。
 少女は深淵を這うような、陰惨な視線で科学者を見ていた。科学者はそれを見ても何の反応もせず、こともなげに視線を戻した。少女は自らに「機は未だ熟さず」と繰り返し繰り返し、狂ったかのように何百回も繰り返し云い続けて、ただ無言で其処に居るのだった。


72

 まるで夜の化身のような紺色の外套を着込んだ奇怪な少女は、僕のほうを見ると云った。
「この国は脆い。あっという間に瓦解する程度の地盤しか有していない」
「君が云っている事はよく判らないけど・・・」
 少女は僕の云った言葉を聞くと暫し止まり、胸の前で両手を合わせた。
「つまり」
 両手を少しづつ離して往く。ちょうどその中心の部分に夜闇に混じって、黒い玉のようなものが見えた気がした。
 目を凝らす。
 気のせいではない。徐々に、少女が手を離すにつれてその少女の手の中にある黒玉は大きくなっている。しかも少女の手が僅かに白い閃光を放っているようだった。
「何を・・・」
 僕は危険を感じて一歩、退く。
 その黒玉が少女の顔大になると、少女は顔を上げた。そしてそのまま辺りを見渡し、山を見つけるとその方向に向かってソレを飛ばした。
「もう少し大きいのを地盤に当てれば、この国は没する」
 夜を裂いて飛んでいった黒玉が、旅客機が墜落したような音を立てて山にぶつかり、見える範囲にあった部分を丸々消失させた。
「なっ・・・!?」
「もう時間がない」
 少女は僕のほうを見つめたまま一歩後退した。
「待っ・・・!」
「次は、来てもらう。協力者が要るのだ」
「誰なんだ君は・・・!」
 少女は地を蹴り、大きく宙に浮かび上がり様に、その質問に答えた。
「王だ。深淵の・・・」
 そして一軒家の屋根へと降り立ち、最後に僕を一瞥すると屋根を伝って消えていったのだった。


71

 砂漠を走りつづけていたサンドバイクが、ゆっくりと減速してそのロボットの前で止まった。
 男が下りて、ゴーグルを上にずらす。
「こいつは・・・一昔前の護衛ロボット・・・?」
 そのロボットは熟練の雰囲気を携え、役目が終わったかのように其処にぽつねんと立っていた。
 確かに、男が一昔前と云ったように型が古い。今現在帝都などで見られる、すらりとした人間然としたものではない。肩と胸は丸っこい装甲に覆われ、腰当も戦闘機に使われていそうな物をそのまま使っており、頭部には麦藁帽子のような装甲をあてがわれている。どれも風化して錆びが見られた。
 男はそのロボットの背後にある、巨大な廃工場を眺めた。昔は軍事目的で稼動していたものだろう。長年の砂漠生活でその工場も遠目にも判るくらい風化していた。
「おい、お前はなんと云う名で、生まれてからずっと此処の護衛をしていたのか、教えてくれないかい?」
 男はロボットの、頭部装甲の奥にある光の消えた目を見て云った。無論返事はない。
 男は暫く腕を組んで何事かを考えていたが、やがて顔を上げると、
「よし、お前を連れて帰ろう。機械史学者としては非常に興味深いんだ。協力してくれると嬉しい」
 と云って、そのロボットの頭部を弄りだし、数分としないうちに記憶データの詰まったテレホンカード大のカードを抜き取った。
 男はそれを大事そうに布で包んで鞄に仕舞い、サンドバイクの収納部に押し込むと、再びサンドバイクを駆って走り出した。


70

「来たぞ!肉屋だっ!ずらかれ!」
 そう云うなり、全身黒で統一した服装の金髪男女二人組みは逃げ出した。先頭を駆ける女は、おっきな肉を抱えている。
 秋も深いというのに、そのカウンターを飛び越えて現れた肉屋は半袖半ズボンだった。何時も何か仮面をつけているが、今日はデフォルメされた猫の仮面だった。手に肉斬り包丁を持ち、猪のような勢いで、吶喊をするかのように二人を追う。
「うあ!早いぞ!」
 そう云いながら逃げる黒服二人を見て、街の人らが「ああまたか・・・」という顔をして道を開ける。
 仮面をつけ、肉斬り包丁を持った肉屋と対照的に、黒服二人は何処までも楽しそうな笑みを浮かべながら逃げているのであった。


69

 大男のキメチェイフは、その少年のような細い男が近寄ってくると、微笑み、深いお辞儀をした。
「やだなぁ、止めて下さいよ。私なんかより貴方の方が身分が上なんですから」
 男は困ったように笑って云った。
「・・・いえ、貴方には、頭が上がりません」
「もう、貴方は私を困らせるのが好きなんですね」
「そんなことはありませんよ」
 キメチェイフも微笑って答える。
 キメチェイフは忘れていない。
 昔、軍に来た頃の話だった。

「貴様ほどの木偶なら目印になる。常に先陣を行け」
「知能までその背に吸われたと見える」
 などと当時の上官に侮蔑交じりに莫迦にされていた。その頃背が高いというのは敵陣でも目立つ所為か、死神の如く忌み嫌われていたのである。
 キメチェイフは半ば自棄になって、本当に先陣を切って敵陣へと駆け、その斬撃鬼人の如しと云われ恐れられるほどの働きをした。
 血塗れの日々が続いていた、そんな或る日の事だった。
「やぁ、貴方がキメチェイフさんですか」
 街中で細身の男に声をかけられ、キメチェイフは一瞥しただけで無愛想に、
「そうだ」
 とだけ答えた。キメチェイフは、その男の容貌を見て、街の子供が興味本位で声をかけてきたのだろうと思った。
「本当に大きいですねぇ」
「・・・・・・・・・」
「ほら、見てくださいよ。私なんか背が低いものだから人が多いと誰にも見つけてもらえません」
 キメチェイフは、いい加減鬱陶しくなってきたので、追い払おうとしたが次の言葉を聞いて固まった。
「頑張って人を殺しても戦功にならなきゃ莫迦みたいですもんねぇ」
「君は、軍の人か」
 キメチェイフが問うと、男は意を突かれたような顔をして、苦笑した。
「やだなぁ、顔を覚えられてもいなかったんですか。これでも一師団長をやっているんですよ」
 師団長、と云えばキメチェイフの上官に当たる。厭な上官は数居れど、こんな上官は見たことがなかった。
「も、申し訳御座いません」
 キメチェイフは謝罪し、街中にもかかわらず膝を付こうとした。
「あ、あぁ、いいです、いいですよ。お互いに職務中じゃないんですから、そんなに畏まらなくてもいいじゃないですか」
 男は慌てて手を振った。キメチェイフは一礼をして立ち上がる。
「知らずのこととは云え、二重の無礼を・・・」
「いいです、いいですってば。困ったなぁ・・・。そうだ、じゃあ罰として私を肩車してくださいよ」
 男は悪戯っ子のような笑みを浮かべてキルチェイフに云う。
「肩車・・・ですか?構いませんが・・・」
 そう云ってキルチェイフがしゃがみ込むと、「では失礼しますね」と男は乗った。
 立ち上がる。
「おぉー・・・。これは凄い。なるほど、背が高いと云うのは壮観ですねぇ。羨ましいです。素敵ですよ」
 キルチェイフは、妙な気分になった。こそばゆいような、むず痒いような、そんな感じである。背が高いことを褒められたのは、恐らく、初めてだった。

 そんなことがあり、キメチェイフはその働きが認められて昇進しても、この男にだけは以前と同じ態度、それどころか寧ろ教皇以上に敬意を示して接していた。
 その奇妙な関係はキメチェイフが殺されるまでずっと続いたのだった。


68

 少女は、今、何代にも渡って受け継がれてきた襷代わりの真っ赤なリボンを、その無骨なロボットの首に掛けた。
「やっと・・・皆の、パパの、お爺ちゃんの、曾お爺ちゃんの、夢が・・・」
 感無量で少女は云う。
 物凄い部屋である。雑然としている、のではなく物が多い。ぱっと見ただけでも地球儀が三つ四つあったり、ランプが十近くあったり、本など大小様々なものが三十はあろう。その他にも椅子やロボットのパーツや写真などが散乱して部屋のおよそ三分の二を物で埋め尽くしている。
 その部屋の真ん中で、少女は中腰になったロボットの首にリボンを掛けた。
 まだ、完成したわけではないだろう。頭部と手足は外装に覆われているが、その他の部分が内装剥き出しなのである。ロボットが僅かに動く度に、幾つもの関節が稼動しているのが直に見られる。
 ロボットはリボンを掛けられると、立ち上がった。二メートル半くらいの身長が少女を見下ろす。
「あなたはね」
 少女がロボットに再び手を伸ばす。ロボットは別に何を云われたわけでもないが再び中腰になる。少女はロボットの、円筒形の頭を撫でながら言葉を続ける。
「夢なの。私と、パパと、お爺ちゃんと、曾お爺ちゃんの」
 ロボットの手がゆっくりと上がり、少女の手に上から触れる。
「パパの中のドリーマーは、死んでしまったけれど、私が、私が――」
 少女の瞳から涙が零れ、それっきり黙った。
 ロボットは困ったように、少女の頭を撫でるのであった。


67

「化物めッ・・・!!」
 男は吐き捨てるように云った。
 雨中の夜の高速道路である。運悪く通りがかった車が引っくり返り、両断され、半分ほどが吹っ飛び、転がっている。全て戦闘の跡である。
 男は手元の銃を手繰り寄せ、残弾数を確認し、予備の銃弾も確認する。
 結構ある。少なくとも、人間相手なら充分切り抜けられるほどの量であった。しかし、相手はターミネータ顔負けのマシンである。
「化物めッ・・・!」
 男は再び云った。憎んでも憎み足りぬとはこのことだろう。
 男は凄まじい眼差しを反対車線からゆっくり歩いてくるマシンに向けた。
 女型の戦闘アンドロイドである。右手にビームサーベル、左手にヘリに搭載するようなマシンガンを持っている。そもそも、対人外に造られた戦闘ロボットなのだから、容赦が無く、其の攻撃も生半可ではない。
 放熱用の長髪が雨に濡れながらもはためき、その瞳は戦闘中の印でもある赤色が宿っている。
 男は何度目になるかはわからないが、数時間追われつづけた敵に向けて銃を向けた。
 最終戦の幕開けだった。


66

 其処は。
 広大な枯渇した大地であった。草木の後など一片足りとも見られない。地面はひび割れ、何かの残滓のようにぽつぽつと石が点在している。
 云わば。其処は"終わった"土地である。その土地の何処に立って百八十度見渡したとしても、生きた部分は見られない。遠く見渡せる地平線までもが枯渇した茶色に埋め尽くされている。
 空はまるで世界の終わりを示唆するような斜陽だった。赤、橙、薄黄の見事なコントラストでさえ、その大地には欠片たりとて反映されない。
 もしも、その大地を延々と歩き続ける放浪者が居たとすれば、それを見た瞬間に本当の終わりを確信するであろうモノが、一つだけある。
 巨大な十字架だった。
 兎に角、でかい。縦三十メートルはあろうかと云う、紫色の十字架だった。それは何一つモノが消え失せた大地に、ヒトの時代の終わりを刻むたった一つの証拠の如く其処に存在している。
 その大きな十字架でさえ、全体でみればほんのちっぽけなものだろう。恐らく世界の終わりの一部始終を見てきたであろう十字架は、傷だらけで所々欠けている部分すら見られる。その傷だらけの支柱の中心、柱が交わっている所に何か三行ほどの文字が刻まれているのだが、風化が激しく、すっかり薄れて読めなくなってしまっている。
 その、横に突き出た柱の部分に、一人の少女が腰掛けていた。僅かに傾いている十字架にゆったりと腰を下ろし、斜陽に背を向けている。
 其の少女は吟遊詩人という名詞が当て嵌まりそうな格好をしていた。たった一人、この世界にたった一人の生命であろう少女は、誰にも邪魔される事無く、目を瞑って横笛を吹いている。
 荒廃しきった大地にその柔らかな音色は、新たなる創世記を奏でるかの如く大地に染み渡ってゆく。何時までも、何時までも、止む事は無く、聴く者の居ない音色は生産され、消えてゆく。
 それでも少女は、まるでその音色を延々と生み出す機械のように音を奏で続けるのであった。


65

 神殿の庭にある、池の傍の大きな石にウシュカは腰を下ろしていた。ずっと、助けを求めるかのような目で池の中を覗き込んでいる。
「君が」
 不意に、頭上から声がかかり、ウシュカは見上げた。
 鎧に身を包み、冑に師団長の証である徽章が刻まれた中年の男と目が合う。
「・・・はい?」
「神の子、と呼ばれる人か」
「・・・はい」
 男は黙り込んだ。ウシュカの目をじっと見つめ、ウシュカも男を見返す。
「あの、・・・どなた・・・でしょうか?」
 ウシュカは奇妙な沈黙に耐え切れず、問う。
「君の地方周りの護衛を担当する者だ」
 神子であるウシュカと一介の師団長であるこの男の身分は、明らかな格差があるはずなのだが、男はウシュカに微塵も敬意を払っている様子はない。
 ウシュカは、何だかそれが妙に気持ちよかった。久しぶりに一人の人間に戻ったような気分になった。
「あ、よ、宜しくお願いします」
 ウシュカは小さく頭を下げた。
「・・・一つ、問いたい」
「何でしょう?」
「君は、本当に、神が居ると思うか」
 ウシュカはぎくりとした。神子にその問いを投げかけると云うことは神子の存在を否定しているに等しい。都ではその思想を持っただけで死罪とされているほど、その罪は重いとされていた。
 ウシュカは冗談なのではないかと思い、取り消しの言葉を待った。
「私は」
 男は、何かを云い掛け、ウシュカの何か訴えるような眼差しを見て、言葉を切った。
「・・・いや、辞めておこう。・・・邪魔をした」
 それだけ云うと、男は踵を返して神殿の中へと歩み去った。


64

「傷?」
 全体的に細い感じのする男は、笑顔で聞き返した。少女はその男の、笑顔以外の顔を知らない。
「ええ。その・・・首から伸びている・・・」
 少女は戸惑いがちに男の傷を指差した。
「気になりますか?」
「え、いや、その、・・・はい」
「いいですよ。そう云うことなら見せてあげます」
 云うなり、男は服を脱いだ。
「ぅあ・・・」
 少女は瞠目した。僅かに怯えが混じっている。
 その左肩と首の分かれ目から下へ真っ直ぐ伸びていると思っていた傷は、鎖骨の下にある横傷で、まるで十字架のような傷跡になっていた。
「見ていて気持ちのいいものではないでしょう?」
 男は苦笑した。
「出来たばかりの頃は大変だったんですよ、本当に。近所の子供達が怯えて遊んでくれなくなっちゃいましたよ」
「その・・・傷は」
 少女には、心当たりがあった。十字の傷なんてそうそう居るものではない。
 男は掌で傷を撫でた。
「別に神がどうのこうの、と唱える気も無いんですが。無神論者ですよ私は。小難しい話はどうにも、駄目です」
 そう云って、恐らく、教皇直属軍を殆んど一人で絶望の淵に叩き込んだと云われる男は、弱弱しく微笑った。


63

 リフェカは正座をして、静かに向かい合っていた。
 古い文献にも『迷いし者絶たず。森の民の案内を請わんとすべし』と記されるほどの、現在においてなお行方不明者が後を絶たないというその森で、偶然見つけた木の洞窟に入った。その巨大な大木で出来た洞窟の中で、リフェカは一夜を過ごそうとしていた。
 善い場所を見つけ、座り込んですぐ疲れのためか眠りに落ち、目覚めた瞬間、リフェカは仰天した。ちょうど、座り込んだリフェカの反対側に顔のようなものが飛び出ていたのだ。
 最初は気付かなかっただけかと思ったが、やけに精巧に出来ている。鼻、口、顎、額。眼窩の部分は窪んでいるのみであった。リフェカはなんとはなしにその鼻に当たる部分に触れてみた。
「起きなすったかね」
「ひゃあっ!?」
 触れた瞬間、窪んだ眼窩に光が灯り、言葉を吐いた。リフェカは驚いて後ろに下がる。
「ここは」
 と、顔は云った。
「わしの腹ン中と云っても差し支えない」
 リフェカは何と返せば善いかわからず、ただコクコクと頷いた。
「それは承知の上か?」
 リフェカは、今度は逆に首を横に振りながら云う。
「し、知らなかったんです。すいません、その、すぐ出て行きます」
 顔は口の端を吊り上げて笑った。
「出てゆく?今から?外を見て云っているのか?」
 リフェカはそう云われて外を見た。既に日は落ち、夜闇が蔓延している。
「あ・・・」
 森は危険だが、特に危険なのは夜だと云うことは、リフェカに限らず旅人としてこの地に足を踏み入れる者なら皆知っている。夜の森を歩き回るくらいなら、木の上で震えていた方がマシだと云われるくらいである。リフェカは困った。夜の森を歩き回る者の末路は厭というほど聞いている。
 森の夜は、月が出ていようが出ていまいが、絶望的なまでの暗さになる。リフェカはふと、今居るこの場所はさほど暗くも無いのに気がつき、上を見た。上一面を緑ゴケのようなものが覆っていて、それが光を発していた。
 来た時には同じく無かったものである。気付かなかっただけかもしれないが、リフェカは来た時は無かった気がした。
「何、無理に出て行けとは云わないさ」
 顔が云った。
「え・・・?」
 リフェカが怯え混じりに顔を見る。代わりに何を云われるものかと警戒している様であった。
「わしはこの通り、動けないのでね。お嬢ちゃんの何倍も生きている割りに外の世界についての知識は乏しい」
 リフェカは何を求められているかが判らず、怪訝そうな顔をした。
「見た所、お嬢ちゃんは旅人のようだ。この老木に旅話でもしてもらえればそれを宿賃としようじゃないか。どうだね?」
 リフェカは、嬉しそうな顔で頷くと、早速話し始めた。


62

 其の小さなバス停ほどの大きさしかない駅は、水の上に浮かぶ孤島のようになって久しい。
 時の大いなる厄日によって世界水没の憂き目にあって以来、小高い丘のてっぺんにあったその駅のみが水の上に浮かぶ孤島のように長らく佇んでいる。
 しかし毎夜、一日たりとて欠かさずに、大いなる厄日前と同じく光が灯っている。オーロラが出るほど綺麗な夜にそれは一種の聖域として輝き、何羽もの鳥たちが羽を休めに飛んできていた。
 人は思う。
 何時か、来るに違いない電車にとって、未だ生き続ける灯台とならんとしているに違いないと。


61

 その窓は開かずの扉であった。二つの世界を分断する忌まわしき扉であった。
 昼間は外には出れぬ。それが決められた約定なのだ。詰まらぬ、自分など関わりの一切ない迷信の代償であるというのなら、何と大きな代償であろうか。
 彼はいつもその窓から、すぐ傍にあるのに手が届かない景色を見ていた。子供が駆け回る。やりたい遊びをやる。皆で遊ぶ。全てを、届くはずなのに、見ていた。
 そんな彼の元に、男勝りな彼女が来たのは、
「まぁなんとなく」
 だったらしい。そう聞いている。それは嘘であろうとも本当であろうとも、どちらでも良かった。
 彼女は自分のことを冒険家のようなもの、と云った。事実その彼女の口から語られる事柄は、全てが新しく、どんな物語よりも魅力的に彼の耳に届いた。
「いいなぁ・・・」
 と不意に彼は呟いた。
 彼女は彼の言葉を聞くと笑みを浮かべ、
「だろ?退屈だけはしないんだよ」
 と云った。
 彼は羨望の意を満面に浮かべながら呟く。
「私もそういう旅をしてみたいですよ」
 瞬間、彼女は、待っていましたとばかりに笑った。
「よし、来い。連れてってやるよ。外に」
 ポンと彼の頭に手を置いた。
「え・・・?」
「来るだろ?」
 彼女は断られる事なんか、これっぽっちも想定していない眼差しで云う。
「でも・・・」
 困ったような顔で彼は云う。行きたいから。で、そう気軽に外へ出れるような環境下に居なかったのだから、当然といえよう。
 彼女はそんな態度にも全く気を悪くした様子はなく、言葉を続けた。
「いや、実はな、もう頼まれてんのよ」
 彼は絶句した。事態がどう動いているのか、全く理解できていない。少なくとも、自分にとって何か大きな変化が起こりつつあるのは、明確であった。
「うん。そうだな、理由が要るなら・・・あんたが気に入ったから。充分だろ?」
 彼はいまいちわけが判らぬままに肯く。
「よっしゃ、決定だな。じゃ、そうと決まれば早速旅支度だ。一人旅が一気に華やかになりそうだな」
 彼は半ば夢心地にその言葉を聞きながら、(彼は私のことを女の子だと思っているみたいだな)と思った。無理もない。彼は村では巫女として通っているし、長い深緑の髪に丸みのあるその顔は女の子にしか見えない。
 そして実は彼の方も、ショートの髪に勝気な表情の彼女を男だと思っており、その妙な擦れ違いが判明するのは、十日後なのであった。


60

 ドアを開けると、人が傍らに座っていた。
 少女である。短めのスカートにカッターシャツ、そして黒ネクタイをつけてコートを羽織ったその姿は、少女の年齢から推察しても不似合いだった。
「あ」
 煙草を吸いに一歩外へと踏み出した男は、何か忘れていた事を思い出したような声を出した。
 無言でしゃがみこむと少女を揺り起こす。
「ん・・・」
 少女が僅かに首を振って目覚めた。
 男は少女が完全に覚醒するのをしゃがんだままで待つ。
 無言。
「えーっと・・・?・・・、・・・。あ、あ、あぁぁーー!!!」
 少女が男の顔を見、状況を把握し、自分が今何処にいるのかを確認した瞬間、ビルが揺れかねないほどの大声を上げた。
「ちょっと竹芝君!」
 少女は立ち上がるなり男の胸倉を掴んだ。
「何で昨日開けてくれなかったの!こんな季節に締め出しなんかして凍死したらどう責任とってくれるのよ!!」
 男をゆさゆさ揺すりながら少女は怒りの叫びを上げる。
 男は申し訳なさそうな顔で答えた。
「・・・すいません社長。酒かっくらって酔いつぶれてました」
 少女は怒りのあまり声も出なくなる。その様子を見て男は、ドアをどんどん叩く音を聞いて夢心地に心底煩いと思っていた、ということは黙っておこうと思った。


59

 王になれるのは、一握りの人間だ。
 彼は、若くしてその一握りになった。全く運が善かったと云うべきか。悪政に堪えかねた街の人々に押されて決起し、時流の運もあってか、最終的には王立軍まで味方に引き込んで王を倒した。
 そして今、彼は王座に座っている。しかしその格好はいつもの黒い上下に、王の印である王冠と赤マントという不釣合いなものだ。私が意見したところで「なぁに、でっちあげ王なんだから王冠とマントさえありゃ裸でもいいんだよ」と聞こうともしなかった。
「貴方は、・・・王様は何故自分で政治をおやりにならないのですか?」
 私は、王座に肘を突いて座ったまま私が仕事する様をじっと見つめ続ける彼に問う。実際、私なんかよりも彼は頭がいい。私がやるより数倍は善い国が造れる筈だ。
 彼は答える。
「昔通りの呼び方でいいと云うに・・・。まぁ、俺がやらんのはな、お前が居るからだ」
 昔から変わらぬ、ニヤけたと云う表現がしっくり来る顔で答えた。
「・・・・・・・・・では、私が居なくなれば王様がおやりになる、と?」
 私の言い方に険のあるのを見てか、彼は慌てて首を振った。
「あぁ、莫迦莫迦勘違いするなよ。お前が邪魔だというのではなくてだな、俺はお前が必死こいて仕事やるのを見てるのが楽しいんだよ」
 趣味が悪い、としか云いようが無い。私は呆れ返った表情で返答する。
「・・・私は王様がやられないからやっているまでですが」
「・・・何だ、厭なのか?」
「当然です」
 私は政治が楽しいのは根っからそういう気質のある人間か、賄賂貰える人間くらいのものだと思っている。少なくとも、私はどちらにも該当しない。
「ふぅむ・・・そりゃ気付かんかった。よし、ちょっとこっちゃ来い」
 彼は私に向かって手招きをした。
「何ですか・・・」
 私はとりあえず書類を置いて、彼の前まで来ると形式通り跪く。
「あーもー几帳面な奴だなお前は。ここまで来いってば。俺の目の前まで。ほら」
 彼は膝をバンバン叩きながら云う。
 私は溜息をつき、立ち上がって彼の前まで来る。
 瞬間、
「うら、そんなに厭ならお前もこの位置に来るか?」
 抱き寄せられた。
 何時も悪戯する時に浮かべる笑みを浮かべ、私を抱き寄せて自分の膝の上に乗せた。私は赤くなりかけた顔を慌てて逸らす。
「・・・何を云っておられるのです。王様は一人しかなれませんよ」
 私がそう返すと、彼は何故か破顔した。
「ばっかだなーお前は!」
 彼は笑ったまま私の頬を抓った。
「痛い、痛いです!ちょ、止めて下さい!」
「お前がこの位置に来るっつったら、俺の嫁さんになるしかねーだろーが」
 今度は、ばっちり赤くなったと思う。
「・・・楽をするためにわざわざご迷惑をかけるつもりはありません」
 私は、わざとそっぽを向いて答えた。
「何だ、俺はご迷惑じゃないぜー?お前なら街のおっさんらも歓迎するだろうしな」
 彼は何処までも笑顔で云った。


58

 俺には昔、妙な友達が居た。遠い昔、小学生低学年の頃だ。
 生後二日目からの記憶が一日たりとて欠けていないという、一種の超能力的な才能をもった奴だった。それが本当だったのかはイマイチわからない。そいつの記憶はそいつだけのものであって、個人の過去の出来事をあげたからとて確認する術は無いからだ。
 しかし、今は信じている。
 何故なら、そいつは三年生の夏休み半ばで死んだからだ。理由は不明、とされた。医者は名誉保守のためか心筋梗塞だとか抜かしたらしい。
 俺と、当時同級だった奴等は皆、その一事でそいつの超能力的な才能を信じた。
 間違いない。あいつは、記憶量が脳の容量を上回ったから、死んだのだ。


57

「んな!」
 と、声を上げそうになったがすんでのところで飲み込んだ。
 其処は更衣室の前である。
 女性専用のところだが、男が居たわけではない。もしそんな状況ならば、彼女は即座に手に持ったファイルの角で殴りつけているところだろう。
 しかし、この現状は違っている。同僚の女性である。殴るわけにはいかない。彼女は有能ゆえに何らかの別の欠陥があるのではないかと疑っていた。あった。
 その同僚は自分のではないロッカーの中から、そのロッカーの主の女医の白衣を取り出し、顔に押し付けて何とも幸せそうな表情で匂いを嗅いでいた。
 困った。
 と云うのが彼女の心境であろう。人様の趣味に首を突っ込む気は無いが、衝撃現場を目の前に素知らぬ振りを決め込むわけにもいかぬ。
 しかし、しかしである。何とも幸せそうな彼女はこちらに気付く様子は微塵もない。完全に自分の世界に浸っている。
 仕方がないので、音を究極に潜めた蟹歩きでその場を離脱した。彼女は仕事とは別の意味で頭を抱えながら、ロッカーには念のため鍵を掛けておこうと誓ったのだった。


56

 ガクン、と。竜は脱力して地に転がった。
 限界が来ているのは一目でわかる。その硬質の皮膚に刺さった幾本もの矢と槍。それに加えて流れた血が倒れて早々に血溜まりを作っている。
「貴方が・・・殺されなければいけない理由なんて何処にも無かったのに・・・」
 自らの服が血で汚れるのも構わず、その竜に覆い被さるようにして座る少女が、涙を流しながら云った。
 竜はその少女を泣かせたくない一心か、何時も通りの鳴声を上げようとした。しかし、その一目でわかる傷のために、その声はひどく弱弱しいものとして響いた。
 竜は少女の頬を伝う涙を舐めとろうとして首を捻るが、僅かに痙攣し、地に落ちた。
 そして二度と起き上がることは無かった。


55

 昔からトコトン笑わない奴だった。笑顔なんて見たことすらない。
 天使にはあるまじき事だと思う。白のトゥインクル。奴はそれでも戦闘部隊の一隊を率いる長だった。戦闘部隊だからこそそうだ、と云う説明も出来なくは無いが、所属前から笑わない奴だった。俺と奴の付き合いはそれくらい長い。
 現に今も酷く詰まらなさそうな面を浮かべて俺と一対一で対峙している。何時もと唯一違うのは、俺も奴も戦闘装束で武装済みであると云う事くらいか。
「おいおいトゥインクル、折角の幼馴染との戦闘で挨拶の一つもなしか?」
 俺が云うとトゥインクルは酷く厭そうな顔で口を開いた。あぁ、そういえばこいつは昔から戦闘の時に口を開きたがらないやつだったっけ。
「・・・ですから、わざわざ私が一人で出向いたのです」
 その行動自体が挨拶にも等しいだろうとばかりにトゥインクルは云う。確かに、一個大隊を率いるような奴が一人で来るなんて余程の事だろう。
 まぁいいか、とばかりに俺は笑う。
「此処らで俺も潮時ってことかね」
「其の通りです。叛逆なぞ愚かな事をせねば生き長らえたでしょうに」
 トゥインクルはそう云うと、ざんばらの金髪を紐で後ろに纏めた。
「暴虐の大神を抱えたままにしとけと云うのか?ニホンと云う国では上の者に意見を云って死を貰うが本分だと云うぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
 トゥインクルは答えなかった。大神の暴虐ぶりはあいつも判っているのだろう。代わりに、剣の柄に手を掛けた。
「来い、トゥインクル」
 俺も、剣を抜いた。


54

「キミ、大丈夫かい!?」
 竜に乗った自警団の女性が、コーシュに云った。
「あ、は、はい、有難う御座います・・・」
 コーシュは混乱冷め遣らぬ心持の中で礼を云った。
 自警団の女性は竜上から辺りをぐるりと見渡し、
「この辺は危ないからね・・・。あまり出てこない方がいいよ」
「・・・そうですね」
 コーシュは傍らに転がるゴブリンの屍を見て呟いた。
「ところでキミは何処まで往くのかな?」
「あ、すぐ其処の・・・あの街です」
 そう云ってコーシュは丁度その位置から見える街を指差した。規模的には王都に次ぐ程で、遠くからでも見つけることができる。
「ふむ。私も其処に往くところだよ。丁度いい、ほら、乗せていってあげよう」
 自警団の女性はそう云うと笑顔になり、自分の後ろをぱんぱんと叩いた。
「あ、じゃあお願いします」
 コーシュはゴブリンに襲われた時とはまた違う緊張感を持って、乗竜した。


53

 それはたれが最初に云ったのか覚えてはいない。
 ただ、その言葉のみが磐石の重きを持つ刃となり、精神の壁に突き立てられた。それは未だ、抜けぬ。
 男は静かに自らの手を見つめた。
 ぐっと拳を握り、爪先で手の皮膚を僅かに引っ掻く。やがて滲み出てくる血を眺めていた。
 この色、この色なのだ。
 ――我は狂わざるを得んとす。果たしてその因果は何処へ巡りたもうものか。
 男は静かに、血の滲んだ自らの手を見つめた。
 忌まわしくもある其の赤き目で。
『お前の目の色、その赤は狂気を宿した血の色だ』
 それはたれが最初に云ったのか覚えてはいない。
 しかしそれがどのような結末を齎したのかは、善く覚えている。


52

「しーっ!後で遊んであげるから!しーっ!」
 其処に正座で居るのは汗まみれの女性である。片手に持つ電気屋開店セールのときに貰った団扇は女性自身に向いていない。女性の膝で静かに眠る筋肉質な男を扇いでいる。
 尾を振り、舌を出しながら遊んで欲しそうに女性の傍らに座るゴールデンレトリバーを、女性は人差し指を顔の前に当てて、先ほどから「しー!しー!」と繰り返している。何処となく犬は不服そうだ。
 女性は滴り落ちそうなくらい汗をかいているが、その団扇を扇ぐ手は一時たりとも自分に向こうとはしない。
 犬が一旦諦めたか、踵を返して女性から離れた。女性はその後姿を心の中で手を合わせて「ごめんー!」と云いながら見送る。
 そして犬が去った後も扇ぐ手を止めず、とても幸せそうな笑みを浮かべながら扇ぎ続けるのであった。


51

「ほう・・・これは見事なまでの本物だな」
 山奥では何とも不釣合いな白衣を着た中年男が、手元のファイリングされた資料と目の前の子供を見比べながら云う。
「・・・・・・・・・・・・」
 その子供は何も云わない。いや、云えないのであろう。十を越える年齢でありながら、人語を理解できているかすら怪しいものである。
 その容貌を見ればおおよその事情は説明無しでも何となく判って貰えるかもしれない。腰を申し訳程度に隠す腰布、異常にぎらぎらとした赤い瞳、人のそれより尖っている耳、生まれてこの方一度も切った事の無いような長い黒髪、そしてその黒髪の合間から生える一本の角。手には自分で作ったと思われる動物の爪を研いだような小刀が握られている。
 そう、詰まり、鬼なのだ。
 何処がどうなってこの鬼子がこの世に産み落とされたかは記録が無い。しかしこの敵意を露にしている鬼子と真っ向から向かい合っている中年男には、おおよそ見当がついているようであった。
「博士、如何いたします?」
 傍に控える長い棒を持った黒スーツ姿の男が、中年男を庇うように一歩前へ出て云った。
「無論、捕まえるに決まっておる。やってくれ」
「神楽!」
 中年男が「やってくれ」と云うと同時に、棒を持った男が、もう一人の片割れに声を掛けながら前へ出る。神楽と呼ばれた男も同時に出る。こちらは手ぶらだった。
 鬼子が大きく後ろに跳躍する。
「古我、逃がすな!」
 それを見た神楽が自分より先に居る黒服に云う。
「ガゥァッ!!」
 古我が追撃しようとした所で、鬼子は後ろの木の幹に両足を付き、勢いをつけて一気に吶喊してきた。
 古我が横に飛ぶ。鬼子が地面を削るような勢いで着地すると同時に、神楽が小さく手を振った。投げ針である。鬼子は避けるまでも無いと思ったか、左腕で全部を受けると、距離が近い古我の方に飛んだ。
 鬼子の、幾多もの獣の血を吸っているであろう小刀は、振り下ろされたものの古我に届く事はなかった。鬼子は滞空中に一気に脱力し、そのまま地面に転がり落ちた。小刀も握っていられなくなり、放してしまっている。
「よし、神楽、よくやった。山育ちで免疫が無いとは思ったが矢張り当たったか。・・・古我、角を根元から切り落とせ」
 中年男はその結果が当然だというように云った。
「はい」
 古我が胸元から小さな折り畳みナイフを取り出すと、鋸で木材を切るような要領で鬼子の角を切り始めた。
「博士、角を切ると何か変化はあるのですか?」
 古我の傍らに立つ神楽が問う。中年男はニヤリと笑い、
「おそらくな。多分今までの記憶が消える・・・とかその辺りではないかと思う」
「・・・記憶が。しかし、その後はどうするのですか?まさか孤児院に預けるわけにもいかないでしょう」
「その辺も手抜かりはない。何だかんだ理由でもつけてウチの娘にでも面倒を見てもらうさ。そうすれば報告も気軽に聞けるしな」
「なるほど・・・」
 神楽が感心したような呆れたような調子で肯いた。
 それから暫くして、古我が立ち上がった。手には切り落とした角を持っている。
「完了です博士」
 中年男は古我から角を受け取った。
「よし・・・。では下山だ。その鬼子を一緒に持って帰るぞ」
 中年男は口だけで笑っていた。