思いつきで文章の草稿や断片を書くための場所。

草稿帳530-521

530


「ぱぱ、昔UFOを呼んだことあるって本当?」
「ああ、本当だ。当時の友人の錦戸と一緒に呼んだんだ」
「すごーい! ぼくもみてみたい! 呼んでよ!」
「いや、駄目だ。きっと恐ろしいことになる」
「えー」
「忘れられない、あの時のことは……」

「おい錦戸、どうしようUFOほんとにきちゃったぞ」
「着陸した」
「うわ、中から宇宙人出てきた」
「グレイ? グレイだ」
「なんか怒ってるぞ」
『アナタタチ』
「は、はい」
『一体何故呼ンダノデスカ』
「え、いや、本当にUFOなんて呼べるのかなあ……って思って……」
『用モナイノニ呼バレル気持チ、考エタ事アリマスカ?』
「す、すいません。もしかして何かしてました?」
『クリケットノ試合ヲ観テイマシタ。後二分ノトコロデシタ。コノ気持チ判リマスカ』
「いえ、あの、なんかもうほんとすいません」
『次二何モナイノニ呼ンダラタダジャスミマセンカラネ』
「は、はい、すいません」

「彼らには彼らの事情があるんだ。そう易々と呼ぶわけには行かない」
「むー。残念」


529

「ねえ、そういえば、前に聞いた三分間だけ過去を忘れられる能力って本当?」
「本当だよ。君の行く先々で必ず信号が青になる能力に比べたら何の役にも立たないけど」
「それはそれで使い道はありそうな気がするけど。その過去を忘れた状態で何かやった三分間のことは覚えてるの?」
「いや覚えてない」
「じゃあその間に起きたことはなかったことになるの?」
「まあそうなる……んだろうけど、覚えてないだけで蓄積はされる感じかなあ? 三分の間にしたことがなかったことになるわけじゃないし。だから怪我とかその間にしてたら残るけど、なんで怪我したかは覚えてないような感じになると思う」
「ふぅん。ちょっと使ってみてよ」
「え、いやだよ。何をする気さ」
「いいから。騙されたと思って。ね?」
「えぇー? ……判ったよ、変なことはしないって信じてるからね? じゃあやるよ? せーのっ」
 パチッ
「……もうなってるの?」
「うわっ!? びっくりした、貴女誰ですか?」
「なんか演技臭いなあ」
「? ええと、あの、すいません、待ち合わせがあるので失礼しますね」
「ちょおおおおっと待ったあ! まったく、逃げ方だけは変わらないんだから。生憎待ち合わせ相手はこの私よ」
「あの、貴女は?」
「ええい、まったくかわいいんだから。いい? ようっく聞きなさい。私は君が好きな人よ」
「え、あ、え? ……だめだ、ごめんなさい、ぼくは貴女に覚えがないみたいです」
「そんなことは判ってるわ。いい? 私の顔、私の声、私の言葉、しっかり覚えておいて」
 ……
 …
 パチッ
「おかえり」
「ん……うん。ただいま。何かした?」
「指一本触れてないわ。ところで質問。いま、どきどきする?」
「どきどき?」
「私を見て」
「え、あ、言われてみればする? ……かも? あれ、なんだろう、言われてみれば」
「んふふ」
「何かした?」
「まさか」


528

 神様が久しぶりに地球に立ち寄った際、泣いている子供を見つけて聞きました。
「どうかしたのかね?」
 子供は答えます。
「ころんだの。あたまをぶつけてあたまががいたいの……」
「痛いのは嫌かね?」
 子供は頷きます。
「ならば痛みをなくしてあげよう」
 神様は地球上からありとあらゆる痛みを取り除いて去っていきました。


「おばあちゃんおばあちゃん」
「どうしたの?」
「引き出しから出てきたんだけど、これはなに? 種?」
「ああ、それかい? それはね、そう、種だよ。頭痛の種さ」
「ずつう?」
「そうさ。神様がずっと昔に痛みを取り除いてくださったけど、心や他人の痛みも、肉体の痛みも、なーんもわからんようになっちゃったから、人がたくさん死んじゃったんだ」
「痛み? 痛みって何?」
「痛みっていうのはねえ……うーん、説明は難しいねえ。もうちょっと、生きている実感が持てるようになる感覚かしらねえ」
「ふーん。……よくわかんないや」
「つまりこれはねえ、その失われた痛みをもう一度取り戻すための種なのよ」
「どこかに植えないの?」
「そうだねえ、死ぬ前には使いたいと思ってるんだけどねえ。痛みを取り戻したほうがいいのか判らなくて悩んでるうちにここまできちゃったのよ」
「なるほど、それが頭痛の種ってやつなんだね」


527

「さぁーてふろふろ」
 バタン
「きゃー!」
「うわっごめっ」
 風呂場から投げつけられる催涙弾、倒れる主人公、目が覚めたら密室に鎖でつながれている。
 悪夢の脱出ゲームが始まる……。


526

「カーリングやろう」
「なに急に」
「こないテレビでやってたからなんとなく」
「ふぅん。いいよ」

 シャー
 カシュカシュカシュ
「こうやって氷をこすってるとさ」
「うん」
 カシュカシュカシュ
「なんか人生ってこういうもんなんだろうなって思うよな」
「うん」
 カシュカシュカシュ
「自分ひとりで気張って生きてるつもりでも、周囲からこうやって支えてもらってる、みたいな」
「うん」
 カシュカシュカシュ
「馬鹿みたいだと思うけどさ、なんかつい考えちまうんだよ。お前はどう思う」
「クソくらえだ」
「そうか」
「うん」
 カシュカシュカシュ


526

「ねえニンゲン、恋ってどういうものかしら」
「なんです急に」
「だってわたし、縁結びの神様なんて言われてるけど、恋を知らないんだもの」
「辞書に書いてあると思いますけど」
「ばか。そういうことじゃないのよ」
「んー。そう言われましても」
「あんたなら知ってるんじゃないの? わざわざ何度もこんなところにある縁結びの神社にまでくるくらいですもの」
「まあ片思い……ですけど」
「ほらやっぱり! ねえねえどんな感じ?」
「ちょっとちょっと、茶化さないでくださいよ。急に目が輝きましたね」
「茶化してなんか! 必要なことだから聞いてるんじゃない。リアルな体験談って言うのは必要だと思うのよね」
「はあ……まあ、そうですねえ、こう……会話するだけでどきどきするとか、名前を口にするだけでちょっと幸せになるとか……。その人のこと考えてばかり、とかですかね」
「うんうん、そう、そういうのよ。でももうちょっと他にない? そういうのは大体わたしが読んだ本にも書いてあったわ」
「他にって言っても、言葉にすると大体そんなもんですよ。すごくどきどきしますけど、それもどきどきとしか言いようがないですし」
「ふぅん、はぁーあ。そんなもんなのね。もっとこう、この神社に来たときみたいに顔がにやついてるとかそういう話を聞きたかったのに」
「……、……み、見てたんですか」
「だってわたしの家みたいなものだもの。ねえねえ相手は誰? おんなじ学校の子? かわいい?」
「な、なんですか急に」
「急でもなんでもないわよ。縁結びの神様なんだからこういう話をしてるのが普通なの。それで、どうなの? どんなひとなの?」
「まあ、おせっかいなひとですよ」
「そうなの? 世話焼きが好きなのね」
「どっちかというと首突っ込みたがりな印象な気がしますけどね」
「たとえば?」
「自分は恋をしたことないくせに、やたら他の人の恋愛は応援したがったりとか」
「ふぅん。いい感じ?」
「何回も顔合わせて、ようやく会話できるようになったってところですかね」
「へええ、ニンゲンもまめな性格なのねえ。ずぼらって前自分で言ってたくせに」
「そういうものですよ」


525

「海が塩からくなった話を知っているか」
「いくつかあったように思うけど」
「たとえばこんなのがあっただろう、塩を出す石臼が海の中に落ちて、それが回り続けるせいで海が塩辛いっていう」
「聞いたことはあるな」
「最近海の水位があがった理由は知っているか」
「温暖化でしょ」
「いいやちがう」


「これは梅干しをねってぎゅっと固めた……」
「やめろ!」
 バシッ
「うわ、なにするんだ!?」
「梅干しをねって固めただと……? 何でそんなことをするんだ」
「何故って、私は梅干しが大好きだったからだ。一粒で何梅干し分もの味が口の中に広がることを想像すれば……よだれが……」
 だらー
「ほらみたことか、そんなことをすれば涎だらけで何も喋れなくなってしまう。大体無理に固めなくたって、梅干しはうめ……」
 だらー


「それ以来、人々の涎で海の水位があがってしまったそうだ」
「いやすぎる……でもそれと塩と何の関係が」
「塩分が水位をひきあげたんだ」
「帰れ」


524

「何で巧くいかなかったんだろう」
 失恋をした彼は言った。
「こないだ体のパーツも新しいものに変えて、完璧だったはずなのに」
 俗に言うロボットである彼は、自分の失恋に納得がいっていない様子だった。
 僕は一言だけ答える。
「ソフトの問題さ。愛のバージョンが違ったんだよ」


523

 いつからだっただろう。学校の休み時間のたびに私を連れ出してくれる、本の世界から私の意識が引っ張り出されるようになったのは。
 広山香織。それが私にとって非常に大きな存在となったひとの名前だった。
 私のクラスではみんな大体仲の良いグループというものを持っていて、ほとんどの子がそのいずれかに所属していた。だが派閥といった面倒なものはなく、それぞれがそれぞれで完結しているような感じのグループだった。
 だから私のように女の子で一人だけ静かに読書に興じていても、妙なちょっかいを出されることはなかった。……裏で何か言われていたとしても、もちろんそれは知る由もないのだが。
 広山さんとは単なるクラスメイトで、ふと本から顔を上げると目が合うことがある。それくらいの関係だった。最初私はそれをあまり良い印象では見ていなかった。
 一人孤立している状況を歓迎されるとは思っていなかったし、下手したら協調すべき場面で不和となる要因として見られかねないと思っていたからだ。自分でも少しばかり被害妄想的な考えだとは思っていたが、これが当初の正直な思い込みであった。
 それが若干変化してきたのは、同じ状況が何度も続くようになってきてからだ。
 目が合うたびに、恥ずかしそうにはにかんで目をそらすクラスメイトを、悪意を持って見ることはできなかった。元々広山さんは私とは正反対のような性格で、裏表がほとんどないように振るまうその様に、他のクラスメイトも親しみを持ちやすく感じているようだった。
 そんな広山さんは、ある日意を決したように私に話しかけてきた。
「や、やあ、あのさ」
「…………はい?」
 失礼にも、私は話しかけてきた広山さんをじっと見て、思考を落ち着けた上でようやく返事をした。私は心で広山さんに語りかける。無愛想だと思うなかれ、私は話しかけられて言葉にできないくらい驚いて、狼狽していたのだ。
「よく、本を読んでいるようだけどさ」
「え、まあ……そうね、読んでいるけど」
 広山さんは何かを私に伝えようとしているようだったが、いまいち要領をえなかった。話が切り出されたと思ったら二転三転、変な着地点で収束してしまう。それが二度三度と続き、つい私は要点をつかもうとして単刀直入に尋ねる。
「何の用なの?」
 私は口にした後でしまった、と思う。感じ悪いことこの上ないではないか。
 あまりほめられた選択肢ではなかったが、今回ばかりはそれが効を奏したのか、広山さんはそこでやっと気を取り直して言った。
「勉強を教えて欲しい」
「なぜ……?」
 なぜ、私に。そういうつもりで尋ねた。確かに私は成績は上位には入るが、指で数えられるほどいいと言うわけでもなかったし、広山さんの交友関係の中にもっと頭がいい子がいることも知っている。なぜそんな中であえて目立ったところのない私に白羽の矢を立てたのだろう。
 しかし広山さんにはそう受け止められなかったようだった。彼女の様子から察するに、なぜ私が貴女に勉強を教えなければならないのか。そういう風に受け止められてしまっていたように思えた。思い返せば無理もない。似ているようであるが、印象が酷く異なる。
 ごにょごにょと何か理由を言いつくろうとする広山さんを見て、私は申し訳なく思いながら言う。
「私でよければいいけど」
「本当にっ!?」
 広山さんはその返答が全くの予想外であったかのように、私の机に手を置いて身を乗り出してきて喜ぶ。
 ……近い。私は若干身を引いた。指一本分の距離を詰めれば唇が触れ合うほどの距離だった。さすがに広山さんもそれに気づいたか、自身も身を引く。
「あ、いや、ごめん。頼んどいてなんだけど、こんなにあっさり引き受けてくれるとは思わなくてさ」
「……まあ、たまにはね。それより何? 数学だっけ? 広山さんが苦手なのは」
「うん。よく知ってるね」
 今度は逆に、広山さんが間を置いて若干ばつが悪そうな返事をする。
 だがその言葉とは裏腹の表情に、私は心を射抜かれたような気持ちだった。自分のことを指摘されて、相手が自分のことを知っていてくれて、それに対するうれしそうな笑顔。それは文章を読んでいるだけでは味わえない明るさや感情があるものだった。
「いつも当てられてあたふたしてるからね」
 私の指摘に、広山さんは今度は苦笑を浮かべる。そりゃあそうだ、と答えつつ彼女は続ける。
「歴史とか、そういう暗記系なら得意なんだけどねー」
「へえ」
 私は少し目を丸くする。私はそういった暗記系が非常に苦手だった。単語を脳に焼き付ける行為が非常に苦手なのだ。本を読んでいて、重要なキーワードをピンポイントで問われても覚えていないことが多い。前後関係で大まかな流れは掴んでいても、特定単語を問われると頭が真っ白になってしまうのだ。
「古藤さん、そういうのあんまり得意じゃないでしょう?」
 む、と今度は私がうなる番だった。
 黙り込んだ私を見て、広山さんは少し得意げに笑う。
「他の教科はクラスの上位得点者で名前がよく乗ってるのに、そういうのでは一回も見たことなかったから」
「……まあ、ご指摘のとおり。赤点はとってないから何とかなっているけれど」
「じゃあそこはよかったら私が力になるから」
 腹が立つくらいうれしそうな満面の笑みを浮かべて、広山さんは言った。

 そういう本当に最初からそれだけが目的だったのか、若干疑いの念を抱くようなところから、私と広山さんは単なるクラスメイト、から友人に変わっていった。
 言葉を重ねて判ることは、お互いに何もかも違っていることだった。性格も、趣味も興味も、もののやりかた、考え方ひとつとっても違いが如実に出るほどで、同じものといえばただ性別くらいだった。
 でも多分、だからこそ私は惹かれていったのだ。


522

 静かで寒い夜には、バケツを出して水をはり、それを外に出してぼんやりと空を眺めている。
 静かで寒い夜、すなわち空が澄んでいて星が良く見える夜でもある。どこまでもやみ色に染め上げる夜のなかで、しかとそこに在る星を見るのが、私は好きだった。

 もしどこまでも何かを一途に照らし出す、そんなものが私の胸にもあればきっと何かに迷った時だって、自分の選択を見つけ出せるはず、そう思った。
 最初にそんなことを考えて、まるですばらしい思いつきのようにいそいそと、星を獲るためにバケツを用意したのはいつが最初だっただろうか。流星群だ、それは星がたくさん流れる日だ、などということを聞いて、じゃあ運がよければ取れるかも! とばかりにバケツに水をはって外に飛び出したのだ。夜が明けたら薄く張られている氷の下に、光り輝く星があるような、そんな気がしていたのだと思う。母は失笑しながら私のほほえましい失敗を眺めていたが、私はどうも自分でこれが気に入ってしまったらしかった。
 懐かしい。私はあのころに比べて大人になってしまったけれど、星も、この寒さも、あのころから変わっていない。
 星の捕獲など望むべくもないと今ではさすがに判っているのだが、今日もこうしてバケツに水をはって外に出している。
 私は両手を口元に持っていって、そっと息を吐き出した。息が白くなるほどに外は寒い。戻ろうか、もう少し外に居ようか。私は少し迷った挙句、真っ暗な空の様子を映し出すバケツを見て、もう少し居ることに決めた。


521

 最近また変な音に住みつかれている。
 僕は昔から音に好かれてる……とでもいうのか、奇妙な音が身近なものに住みつくことがあった。何か生物でもいるのか、と昔はよく疑ったものだが、音の聞こえた場所には何も居らず、これが幽霊というものなのか、と長い間信じていた。今でも音との関連性がないことがわかっただけで、幽霊がいるかどうかというのはまた別の話なのだけれども。
 何も入っていない空のガラス瓶から、無数の小さなガラス球のようなものがぶつかりあう音が小さく聞こえた時、「そういうもの」なのだと思い込むことにした。
 音は住みついてから数日くらいで引っ越していき、覚えている限りではひとつとして同じ音はなかった。ただ、澄んだ音などは音のよく通る空洞を好んだり、電子音に似たものは電気の通う機器を好んだりと、時には納得できるときもあった。
 音は自分の存在を示すかのように、僕の耳に届いてきた。
 カランコロンカラン。木のようなものがぶつかりあう乾いた音が僕の財布から聴こえてくる。人の多いところでは鳴りを潜め、人の居ないところになるとまたかすかに聴こえてくる。  これは幻聴なのだろうか。他の人には聴こえていない、という点を考慮すれば完全にそうなのだろう。だが決してそれは他人に恐怖や迷惑をもたらすものではなかったし、僕の耳に不快なものでもなかった。
 静かに目を閉じると、住みついてる音が活動するかのように僕の耳にその音をもたらす。
 涼やかで、どこかすっと通り抜けるようなものを持った音に、僕は目を閉じて静かに耳を傾けていた。

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